日本にはパニック障害を患っている人が100万人程度いるとされていますが、その症状の中で最も辛いと感じるのが「過呼吸」です。
耐え難い息苦しさは、生命の危機を感じてしまうほどです。
治療を続け改善させることができる疾患ではありますが、短期間で改善させることは難しく長期間この症状を抱えながら過ごすことになります。
そのため、パニック発作を何度も経験する可能性が高く、過呼吸への対処法をしっかりと学んでおかなければならないといえるでしょう。
この記事では、そんな「パニック障害の発作による過呼吸」について解説していきたいと思います。
過呼吸とは?
過呼吸は、正式には「過換気症候群」と呼ばれています。
緊張や恐怖、不安といった心理的要因がきっかけで呼吸過多となり、息苦しさを感じてしまいます。
呼吸過多となると、血液中の二酸化炭素濃度が低下し呼吸が抑制されます。
呼吸が抑制されることによって、耐え難い息苦しさを感じるようになります。
動悸やめまい、頭痛、吐き気などを引き起こすこともあり、失神する人もいるほどです。
しかし、過呼吸が下人で死に至ることはなく、30分~1時間程度で症状が緩和されます。
過呼吸になった際の具体的な対処法
パニック障害を患っている本人はもちろん、周囲にパニック障害を患っている家族や友人、同僚がいる人も、発作後の過呼吸への対処法を知っておくべきでしょう。
対処法を知っていれば、慌てることなく対応することができます。
対応①落ち着ける場所に移動する
過呼吸は精神面からくる症状であるため、まずは精神的に落ち着ける場所に移動する必要があります。
人が集まってきてしまうような場所だと、「広場恐怖」を感じてしまうため、症状を緩和させることができません。
人目に付かない場所に移動する(他者が過呼吸になっていたら移動させてあげる)ことが重要です。
対応②うつ伏せに寝る(もしくは座って前かがみになる)
過呼吸になると、「胸式呼吸」になってしまいます。
胸式呼吸は、その名の通り胸(肺)を広げるようにして行う呼吸のことです。
腹式呼吸のように深く呼吸すれば良いのですが、息を吐き切らず次の呼吸を行ってしまうため呼吸困難に陥ってしまうのです。
うつ伏せになったり、座って前かがみになることで、自然と胸式呼吸から腹式呼吸に切り替えることができます。
このことを覚えておけば、本人であれば「うつ伏せになれば楽になる」と考えられますし、家族や友人などが過呼吸になった時も「うつ伏せで横になろう」と焦ることなくスムーズに提案できます。
対応③息を吐く秒数を多くする
過呼吸は、息を吸う回数や秒数が増えるため起こります。
そのため、「息を吐くこと」を意識することが有効な対処法となります。
本人であれば、「息を長く吐くことができれば楽になれる」と考えられれば自然と呼吸が正常に戻ります。
家族や友人が過呼吸になっているならば、「呼吸が早くなると余計に苦しくなっちゃうから、時間をかけて息を吐いてみようか」と促します。
言葉だけだとパニック状態から抜け出せないため、背中をさすり手を握ってあげて、「何かあっても大丈夫(助けてくれる)」といった安心感を与えましょう。
息を長く吐いてくれたら、「上手、もう1回長く吐いてみようか」と声掛けすることで、連続して息を深く吐けるようになるはずです。
また、息を吐く際は、「口をすぼめて吐く」という方法が効果的です。
少し落ち着いてきたら、「口をすぼめながら息を吐いてみようか」と促してあげましょう。
対応④薬を服用する
パニック発作を起こした時、①~③を優先的に行うべきですが、それでも過呼吸が収まらない時には「薬を服用する」といった方法もあります。
これはあくまでもパニック障害を患っていて、治療薬を医師から処方されている人だけができる対処法です。
特に抗不安剤のレスキュー薬(ベンゾジアゼピン系)を処方されている人であれば、その薬を服用することで過呼吸を抑えることができます。
実際に薬の効果が現れる前にも、「薬を飲んだから大丈夫」といった精神的な安心感によって過呼吸が収まる可能性もあります。
そのため、何度も過呼吸になった経験がある人は一度医師の診察を受け、治療薬を処方してもらうべきだといえるでしょう。
パニック発作を和らげる呼吸法
深呼吸
パニック発作が起きたときには、深呼吸が有効です。
深呼吸は鼻からゆっくりと深く息を吸い、口からゆっくりと息を吐き出すという誰にでも馴染みのある呼吸法です。
深呼吸を行うことで、体に酸素をたっぷりと供給し心と体の緊張を和らげ、リラックス状態を促進します。
腹式呼吸
気持ちを落ち着かせるための呼吸法としては、ヨガや瞑想で用いられる「腹式呼吸」が有効です。
腹式呼吸は、腹部を意識して深く息を吸い、ゆっくりと息を吐き出す呼吸法です。
鼻から息を吸うときはお腹をふくらますことを意識して、口から息を吐くときにお腹をへこませゆっくりと呼吸をしていきます。
3・3呼吸法
3・3呼吸法は、鼻から3秒かけて息を吸い、口から3秒かけて息を吐き出す方法です。
この呼吸法は心拍数を落ち着かせ、リラックス状態を促進します。特に日常生活の中でストレスを感じたときや、短時間でリラックスしたいときに有効です。
この3・3呼吸法は、通常人間がおこなう呼吸のペースより呼吸数が少なくなります。
呼吸数が浅く、回数が多いとパニック発作を起こしやすいといわれていますので、普段からこのペースでの呼吸法を身に着けておくと、発作を起こしにくい環境を作ることができます。
4・4・8呼吸法
4・4・8呼吸法は、鼻から4秒かけて息を吸い、4秒間息を止め、口から8秒かけて息を吐き出す方法です。
この4・4・8呼吸法は、発作が起こったときや不安感が高まったときに落ち着くために有効です。
4・7・8呼吸法
4・7・8呼吸法は、鼻から4秒かけて息を吸い、7秒間息を止め、口から8秒かけて息を吐き出す方法です。
4・7・8呼吸法は4・4・8呼吸法よりさらに深い呼吸法です。
ゆっくりと呼吸することで、深いリラクゼーション状態を引き起こします。
発作や不安を感じたときはもちろん、寝る前におこなうことで眠りやすくなるという効果があり、不眠の改善にも役立ちます。
5・5・5呼吸法
5・5・5呼吸法は、鼻から5秒かけて息を吸い、5秒間息を止め、口から5秒かけて息を吐き出す方法です。
4・4・8や4・7・8呼吸法と比べて、5秒という同じ感覚で吸う・止める・吐くを繰り返すので、実践しやすいかもしれません。
心拍数を落ち着かせ、心と体の緊張を和らげてくれるほか、集中力を高めてくれる呼吸法です。
この5・5・5呼吸法は、プロスポーツ選手や一流のアスリートたちも取り入れていることが知られています。
呼吸法を取り入れるときの注意点
これらの呼吸法は心と体をリラックスさせ、ストレスや不安を軽減するために有効な手段ですが、以下のような注意点もあります。
個々の効果は異なる
呼吸法は個々の体質や状況により、その効果は異なります。
すべての人に同じ効果があるわけではなく、向き不向きも存在するということです。
自分に合った呼吸法を見つけるためには、いくつかの方法を試し、自分の体の反応を観察することが重要です。
過度の深呼吸に注意
4・4・8呼吸法や4・7・8呼吸法など、呼吸を長くとる呼吸法は、一部の人にとっては動悸やめまいを引き起こす可能性があります。
また、過度の深呼吸は逆に過呼吸を引き起こし、心拍数の上昇や不安感の増大を引き起こすこともあります。
呼吸法を行う際は、自分の体の反応を常にチェックし、不快な症状が現れた場合はすぐに停止してください。
これらの注意点を理解し、自分の体の反応を観察しながら、適切な呼吸法を選び活用することが重要です。
袋を使った対処法(ペーパーバック法)はNG?
日本では昔から、「過呼吸になったら袋を口にあてて呼吸をする(させる)」といった対処法が行われてきました。
特に30代以上の人は、この対処法が正しいと思っている人が多いはずです。
しかし、この対処法には否定的見解があることも事実です。
ペーパーバック法は、「余計に不安を高めてしまう」「脳に酸素が行かなくなる可能性がある」といった理由から推奨されなくなったそうです。
まとめ
今回は、「パニック障害の発作による過呼吸」について解説してきました。
パニック発作は過呼吸を伴うため、非常に辛いものです。
正しい対処法を知っていないと、症状が長時間続いてしまうため、事前にある程度の知識を得ておく必要があるといえるでしょう。
本人もしくは周囲にパニック障害を患っている人がいる場合は、発作を起こした際に対応できるようにここで挙げた対処法を一つの参考にしていただき、実際の行いについては、あくまでも医師の判断を優先してください。
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